[東京 11日 ロイター] トヨタ自動車(7203.T)が11日発表した2011年3月期の連結営業利益(米国会計基準)は前期比3.2倍の4682億円と大幅な増益を達成したが、12年3月期は期初から震災の影響が織り込まれるため、大幅な減益は避けられないとの見方が強い。
また、足元の為替レートは1ドル=80円台と円高で推移し、決算会見した小澤哲副社長が「昨今の一段の円高は収益を預かるCFOとしては日本でのモノづくりを続ける限界と感じる」との認識を示すなど、円高の逆風下でも国内生産を維持する方針を示してきた同社にとっては、取り巻く事業環境が一層厳しくなっており、一部からはグローバルでの生産体制の見直しが必要との声も出ている。
11年3月期の営業利益はアジアの好調な販売や原価改善努力などで前期比では大幅な増益を達成したが、震災の影響が約1100億円の減益要因となり、2月時点の会社側予想5500億円を大幅に下回った。12年3月期の業績予想は公表を見送り、「6月中旬までに業績見通しを公表する努力をする」(豊田章男社長)としているが、トムソン・ロイター・エスティメーツによると、東日本大震災発生後に予想を修正した主要アナリスト16人の今期連結営業利益の予測平均値は3074億円と、大幅な減益を予想する。
同社は生産の見通しについて4月末時点で「国内は7月ごろから、海外は8月ごろから順次回復」としていたが、今回「国内外とも6月ごろから順次回復」と修正した。豊田社長は4月末時点で150品目としていた危機的な部品がこれまでに30品目程度まで減少したことを明かし、「6月には国内外の生産が通常の7割程度に回復する」と語った。全ライン・全車種の生産が正常化するのは11─12月で変わりないという。
ただ、生産回復が前倒しされても、市場関係者の間で今期業績への影響に対する懸念は根強い。アドバンスト・リサーチ・ジャパンの自動車担当アナリスト、遠藤功治氏は「東日本大震災の影響は前3月期の終わりに出たが、今期は影響がフルに出る。生産本格化が多少前倒しされても、少なくとも上期の影響は避けられない」と予想する。また「通常ならば、在庫が多いときにインセンティブをつけて売るものだが、今は在庫がないので、客を引き留めるために車を販売する前にインセンティブをつけていて、それが収益的に機会ロスとインセンティブというダブルパンチになっている」(かざか証券の市場調査部長、田部井美彦氏)との指摘もある。
<円高も収益の足かせに>
さらに、国内生産比率の高い同社にとって足元の円高も足かせとなる。11年3月期のトヨタ単独の営業損益は4809億円の赤字(前期は3280億円の赤字)となったが、このうち約3300億円が為替による影響だった。トヨタは収益改善活動を通じて「今期末までに為替が1ドル85円で黒字化できるめどをつけたい」(小澤副社長)としているが、現状はそれより円高で推移している。
小澤副社長は「それぞれ通貨安の恩恵を受けているドイツメーカーや韓国メーカーと国際競争力で差がつきつつある」と危機感を示すとともに、「いつまで日本のモノづくりにこだわるのか。CFOとしては、一企業としての限界を超えていると強く感じる。今後、社内の関係部署や豊田社長に対してその旨を進言せざるを得ない心境だ」と述べた。
これを受け、豊田社長も「現在の為替水準というのは、私の『日本のモノづくりを守りたい』という思いだけではやっていけないということは理解している」とした上で、自由貿易の枠組みなど世界の競合と同じ土俵で戦えるような環境を整備してほしいと訴えた。
大和住銀投信投資顧問の上席参事、小川耕一氏は、国内外での生産回復にともなって「(利益が)下期から回復し、来年度には大幅増益になると思う」と分析。ただ、トヨタの収益構造が日本の大幅な赤字を北米とアジアが利益を上げて吸収する体質となっているとし、長期的には「グローバルでの生産体制の見直しが必要になる」と指摘した。
(ロイターニュース 杉山健太郎;取材協力:伊賀大記、浦中大我、ジェームス・トパム、編集 吉瀬邦彦)